しっぽの長いネコ
34年程前、結婚して暫らく、子どもも居なかったがネコを飼っていた。そのネコは、オスだった。夫が、もらって来たネコに当時人気者だった〝ゴルバチョフ〟という名前を付けた。
夏に二人で登山に行く事になった。それで猫の3日間の水と食料とを用意して留守にした。
旅行から帰ると、ゴルバチョフは玄関の床に寝そべっている。少し様子がおかしい。よく見ると鼻がピクピクと引き攣るような呼吸をしている。全く元気がない。
獣医さんに連れて行くとすぐにレントゲン検査が行われた。肺炎だった。北国であっても動物を屋内に閉じ込めて置くことは危険だ。と説明を受け、非常に後悔した。
人間と同じ様にゲージをシートで覆って酸素吸入をする。すぐに点滴治療が開始された。入院した一週間の間、毎日面会に通う。
元気になるとゴルバチョフは、自由に外遊して、体中が傷だらけになって帰って来た。成猫になると時々帰って来ない日が続いた。しばらく帰って来ないため、あきられめていた。
ある日、二人で歩いて居ると車道でネコが轢かれていた。それはゴルバチョフにそっくりだった。いつも付けていた緑色の首輪はしていない。「あれは、首輪をつけていないからゴルバじゃないよ。」と夫は落胆さながらも希望を込めて言ったようだった。
数か月間は、家族を亡くしてしまった悲しみに包まれた。
しかし、春の復活祭の近ずく頃に、ゴルバチョフはいきなり帰って来て私たちを驚かせた。緑色の首輪もちゃんと付けている。
私たちは、しばらくは安堵した日々を過ごした。
しかしゴルバチョフは、再びまた外遊に出かけた。家に閉じ込めて置くことは出来なかった。そして、その後は返って来ることは無かった。
ゴルバチョフは、どうしただろう。たまに服に付いたネコの毛を見つけた。すると夫は、穴の開いた胸中を「ゴルバこんなになっちゃって、、。」とつぶやいた。
それほどペットに愛情を注いでいたのだ。
ネコのゴルバチョフは、最後まで自由に生きただろうか。そんな事を思った。
先日、元ソビエト連邦大統領ゴルバチョフの訃報が、昔飼っていた猫を思い出すきっかけとなった。そして彼がノーベル平和賞を受賞したのは、59歳の若さだった。そんなことに今さら驚いた。
ご冥福をお祈りし、一日も早い戦争の終結と平和を合わせて祈念したいと思う。
夫が、昔飼っていた猫の写真を探し出してくれた。シッポの長いキジトラ猫だ。
今飼っている娘が連れて来たネコは、シッポの長い白猫。
長いに縁があるようだ。