Transfiguration

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 朝から雨が降り続いている。

 娘が3歳の頃だった。いっしょに雨合羽を来て、坂道に流れ出した小川をせき止めてダムを作った。雨がたくさん降ってくれるとダムの中の水がきれいに保たれたので嬉しかった。

 ダムのそばに小さなミミズが這っているのを見つけた。2人で、声をそろえて「がんばれ!ガンバレ!」と応援した。

 娘が大人になって遠方の大学に進学した。卒業式の日は、朝から晴れていた。しかし、午後の一番遅い時間に組まれていた卒業式の時になって、雨が降り出した。会場までの長い列の中で、ほとんどの人はずぶ濡れになっていた。しかし、みんな普通にしていたので、私もそうした。

 帰路に、大小のたくさんのカタツムリが道に這っていた。カタツムリを見たのは何十年ぶりのことだ。「わぁ!すごい!」私は不思議でたまらなかった。時間の余裕が無かったが、思いっきりその場でしゃがみ込んでじっと見てしまった。娘は「もう、ママ信じられない!」とあきれていた。

 卒業まで、娘が病を押して命がけで挑んだ時間だった。私は身を切られる思いであったが、何食わぬ顔で過ごしていた。

 雨が降りそそぐ卒業式は、娘にも私にも忘れられない大切な思い出となった。