折り鶴

 数年前に見た夢。

 仄かな明かりの中でから、小柄な初老の男性が現れた。

彼は、お菓子の空箱をそっと私に見せた。その箱の中には,小さい折り紙が数枚入っていた。よく見ると、一つは途中まで折られたものだった。

 そこまでしか覚えていなかった。しかしとても気になっていた。ふと地方にある大衆食堂を思い出した。『築町食堂』この町ではにぎやかな繁華街にあった。電停もバス停も人であふれていた。

 そこに行くと、いつも中ほどの席に座って一日中座って鶴を折っている老女がいた。初めて入った時、この方が店のルールを説明してくれた。お茶は自由に入れてのむこと。おかずも温め自由など。

 見ると何羽も綺麗に鶴を折っていた。たくさん折って原爆資料館に寄贈するのだそうだ。「とても喜んでもらえるの。」と嬉しそうに話していた。

 お客さんが入って来ると、必ず声をかけていた。「お帰りなさ~い。」お客さんも「はーい。ただいま~。」と返事をしている。給仕の女性も暇なときは、まるで親類と話している様に楽しそうだった。老女は、いつも帰りがけに「またお会いしましょうね。」と声をかけてくれた。

 

 夢が気になっていたので、思い出して『築町食堂』に行ってみた。残念ながら、彼女はいなかった。

 思い出して見ると、私は知らずに精神療法を受けていたようだった。

『途中まで折り進めた平和の折り鶴を、今度は自分で折り上げる。』これが私へのメッセージなのかもしれない。